追想紀
山城高校3年生で同クラスに、黒瀬という奴がいた。頭のいい奴だった。
何かと気が合うのか二人で過ごした時が多々あった男だ。
彼も「大山」と同じく、秋の文化祭で親密度を更に増した。
当時テレビの人気番組「ベン・ケーシー」の役をし、当時の言葉で「ホンコンシャツ」という
白の半袖シャツを前後逆さまに着て、ドクターの姿が良く似合った髭ずらの「バンカラ」な男だった。
高校卒業後、何年かして、ある新聞に彼の名前があった。
驚いた。その世界では少し名前を売り出しているんだ。
それから4〜5年して・・・・
ある時、新聞に彼の名前があった。
驚いた。彼は・・・・・自分の意思で、自らの命を絶ったのだ。

30年程、彼の名前を忘れていた。
先日、京都新聞の文化欄(?)で同世界の評論家が彼を懐かしんでいた。
 
彼の名前は・・・詩人の黒瀬勝己である。


私が大事に持っている高校3年3組卒業文集の中から、黒瀬勝己が高校卒業前に作った
作品を、ここに紹介します。
素朴な純粋な、飾り気のなく、下駄を履いて学校に登校するような
男の、詩をゆっくり読んでやってください。




ETUDES
   
           黒瀬勝己



寒い夜
こいびとの涙をもらって抱きしめたい

この寒い夜に
ぼくはこれまでぼくが愛した少女たちを
想う


ああ幻影を幻影と言ってしまいたくない
いとおしいぼくのこころ
      *      *
酒を飲んでも酔っ払えない
くるしいこころ
もう何事にも酔えないのではないか
とふと思うとおそろしい
時と自分より解放された時にのみ
わたしの休息はあり得たのだ
      *      *
初恋のあの情熱を
今一度とり戻したい
瞬間に燃えたあの花火を
今一度咲かせてみたい
その花の中に
わたしはわたしの安息所を見つけるかも知れない
      *      *
あなたが微笑う
みんがあなたにあこがれる
みんなは微笑う
だけど
あなたもみんなも傷ついていく
      *      *
ああ完全な酩酊状態を
わたしは愛す
恋をするには
悪酔いがおそろしく
恋をしては
二日酔いがおそろしく
      *      *
女に娼婦と天使を同時に求める
それをうまく使い分ける女を
魅力のある女というのだと思う
      *      *
安易に身を任したときに
俺の人生は閉じるのだ
俺は得恋より失恋を希う
多幸より薄幸を希う
安易より困難の中で生きてみようと思う
この反俗精神だけはいつまでも持ち続けたいとねがう
      *      *
どこかで犬が吠えている
空には星が光っている
このちいさな灯のもとにわたしのライフがある
もうどこにも行かない
そうして
わたしはわたしの中にかえっていこう

わたしはもう祈ることも
誓うこともしたくない
このひっそりとしずまった夜に
すぎ去ったわたしのライフを感じよう

庭の静寂に浮かんでくるのは
わたしが愛した少女たち
彼女たちを愛したように
出来ればわたしはすべてを愛したい
このわたしのやさしい感情
 

夜が更ける
明日が来る
わたしは生きる
わたしの愛するもののために
わたしのライフの彫像のために
      *       *
俺はしょせん二流の人
こうやって書いていると二流の哀れさが
こみあげてきます
      *       *
卒業ま近になってこの山城にすばらしい目をもった
少女を見つけた
二年生だと言った 名前も知らない
もう一度その目をみつけるために
わたしは今日も学校へ出てくる




何処の寺の境内か解らない。
夢の世界の中である。
その寺の境内の松林の中を、私を見ながら歩いている男がいた。
誰だろう?と思い、よく見つめてみると・・・・
なんと、高校時代(3年)同クラスで友人の「大山良平」だった。
「お〜い!大山〜!」と呼んだが、彼は私の顔を見て笑いの表情をするだけだった。
彼は、「体操部」に所属する楽しい性格の男だった。
その笑顔は、高校時代のままであった。何度呼びかけても、彼は笑うだけだった。
やがて、松林の奥に「大山」の姿は消えていった。

彼は、高校卒業後、病に倒れ18歳の人生を終えた。
自然で純粋な彼を襲った病名は、「脳腫瘍」と聞いた。
彼の死から40年経た今でも、医学の力でその病を完治できない。
今から、40年先には医学の力は、直せる病気になっていると思う。
また、絶対にそうでなくてはならない。
何故なら、・・・・・あの病ほど憎むべき奴はない。